原発性硬化性胆管炎(PSC)に関するオランダにおける画期的研究

原発性硬化性胆管炎(PSC)に関するオランダにおける画期的研究

注意:

著者は医学的な教育を受けていません。この研究はオランダで実施されているため、本文に記載されている数値や結果、結論、治療実施計画は各国によって異なる場合があります。ご自分の健康について質問がある場合は、主治医にお問い合わせください。

オランダでは約1700万人が41.520km2の国土に住んでいます。

オランダの医療制度は義務的であり、保険料は個人の健康状態や年齢、収入に関連しません。医療保険制度は二本立てになっています。一次医療と治療サービス(総合医療医への来院など)は民間の強制保険で支払われますが、長期医療は社会保険で支払われます(税金を原資とする)。病院の多くは非営利の民間運営です。


2014年の第1週目、アムステルダム(オランダ)の学術医療センター(Academic Medical Center;AMC)の研究員であるKirsten Boonstra, PhD(キルステン・ボーンストラ博士)に対し、私は『Hepatology』
1(肝臓に関する月間学術誌)に最近公表された同博士の論文に関するインタビューを行いました。この論文では、オランダで実施された原発性硬化性胆管炎(PSC)の珍しい研究が記載されています。AMCのPSC研究グループは、PSCの進行を専門に研究しています。この画期的研究プロジェクトからどんな結論が導き出されるのでしょうか。そして、PSC患者への影響はあるのでしょうか。以下の情報は、そのインタビューからの抜粋です。

最初に、この研究デザインは極めて珍しく、オランダ国内44病院(医師および看護師が全員関与)と肝臓移植センター3施設(ライデン大学医療センター、クローニンゲン大学医療センター、エラスムス大学医療センター)の間におけるパートナーシップから成っています。地理的には、オランダの約半分の地域が対象となっています。研究員であるBoonstra博士とPonsioen博士がPSCの診断を確認するため、PSCが確認または疑われた患者の全記録を個別に調査しました。その結果、590人のPSC患者が特定されました。研究者らが疾患の経過知見を得られるように、患者の医療記録が毎年継続して更新されます。地理的に限定された地域で人口全体からPSCのような難病が調査されるのは、今回が初めてです。AMC研究チームは、6年間にわたる研究で人口の約半数を網羅し、研究終了時点で、オランダ国内のPSC患者全員を登録するだけでなく、1~12年間にわたる個人レベルの貴重な最新情報も取得しています。

研究デザインは画期的な上、その結果はあらゆる意味で非常に興味深いものです。たとえば、オランダのPSC患者数は今まで報告された数字よりも低く、10万人中6人です。

さらに、オランダのPSC患者集団全体において、診断から「エンドポイント」(移植または死亡)までの期間は、移植センターの報告による13.2年ではなく、21年を若干超えていたことが明らかになりました。これは、前者の数値が移植センターの患者のみに基づいていることが一因です。これらの患者は一般に病状が極めて重いため、移植センターに紹介されてきます。ところが、この研究では、様々な大学病院や地域病院の患者も調査したため、以前に考えていたよりも病状が軽く、より好ましい疾病経過をたどるPSC患者が含まれているのです。

胆管癌
オランダの一般住民において胆管癌(CCA)は非常に稀であり、ほとんどのCCA症例はPSC患者で発生しています。CCAの発症リスクはPSC患者でかなり高く、同年齢の健常者集団と比べて約400倍です。ここで、「小胆管PSC」ではCCAの発症がほぼ皆無であることを言及しておくべきでしょう。小胆管PSCを発症したのは、調査対象となったPSC患者の約9%でした。

大腸癌
国際的な調査によると、大腸癌(CRC)の発症リスクはPSC患者で10倍増を示し、平均年齢は比較的若い39歳です(炎症性腸疾患コントロール群の59歳と比較)。一般的に大腸癌の死亡リスクは、特に癌が早期に発見された場合、CCAよりもかなり低くなっています。


新たにPSCと診断された患者に対しオランダでは現行処置として、たとえば、いわゆる「診断時」(PSCと診断された時点)で大腸内視鏡検査が実施されます。炎症が認められない場合、それ以上内視鏡検査をする必要はありません。しかし、腸内に炎症が認められた場合は、年1回の大腸内視鏡検査が推奨されます。

研究によると、CRCによる死亡数は、診断に十分な年1回の大腸内視鏡検査を受けなかった患者よりも、年1回の大腸内視鏡検査を受けた患者群の方が極めて低いことを示しています。「炎症がある場合、毎年の内視鏡検査の重要性は明らかです。大腸癌の発症が平均39歳であることから、比較的若い年齢でのスクリーニングが正当化されることに留意してください」とBoonstra研究員は述べています。

ウルソデオキシコール酸
患者全体の半数で、ウルソデオキシコール酸(使用者の間では「ウルソ」として知られる)の使用は検査値に好ましい影響を与え、服用すると気分が良くなると使用者のほぼ全員が答えています。しかし、PSCの進行に対するこの薬剤の有効性は証明されていません。ウルソデオキシコール酸を使用すると炎症が抑えられることはよくあります。

NSAIDs
NSAIDsとは、非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)のことです。一般に使用されているNSAIDsには、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナクなどがあります。

NSAIDsを時々使用すると、PSCの進行に対して予防効果をもたらすことが明らかなようです。ただし、現時点ではまだ確実な結論が出ておらず、クローン病や潰瘍性大腸炎など多くの関連疾患に悪影響を与える可能性を考慮すると、今後さらに調査していく価値があるとBoonstra博士は指摘しています。

移植患者
厳密に言うと、移植患者は本研究に含まれていませんが、患者集団をより良く理解するため、研究期間中に移植を受けたPSC歴患者を追跡調査しました。たとえば、PSC患者が移植後に入院したり、移植臓器が胆管の分岐点で損傷するなどの可能性があります。このようなデータは、この患者群のお陰で今後より良い治療を提供できる可能性があると考える、研究者や医師にとって興味深い資料です。

そこで、PSC患者である自分には、何ができるでしょうか。
年1回の内視鏡検査と2年に1回のDEXAスキャン(骨密度測定用)の記録を自分でつけるなど、積極的に関与できます。これらの検査はオランダではPSCの標準手順ですが、必ずしも適切に遵守されていないことが本研究で示されています。時によっては、医師が忘れていることもあるでしょう。そういう場合は、自分から医師に伝えることができます。

胃腸系の症状が若干あるか、全くない場合でも、年1回の大腸内視鏡検査を受けることで死亡率は大幅に低下します。腸が健康である(炎症なし)と確認されたPSC患者は、このような検査を毎年受ける必要はありません。


また、この難病患者が各種の調査や治験登録に参加し、海外および国内レベルの研究資料や研究結果としてそれらの情報の使用許可を与えることは極めて重要です。研究者や医師がPSCに関する知識を深めることにより、より早く治療や薬剤を利用できる可能性があるからです。

結論:
難病の場合、大規模コホートを対象にした研究の実施が重要です。これにより疾患に関する詳細な情報や良質で信頼性の高いデータが浮かび上がってくるからです。今回の研究結果として、
PSCの罹患率と有病率(10万人中6人)、および診断後の生存年数(移植または死亡まで21年間)が新しい国際基準となりました。

この研究では、もう一つ好ましい副次的な結果がありました。AMCのPSC専門家が研究に関与した44病院のうち1病院の専門医らから何度も問い合わせを受け、患者やPSC関連の質問等について対応したのです。専門家からの助言を得る機会が増えれば、PSC患者がそこから恩恵を受ける可能性が高まると言ってもいいでしょう。

 

今後の展開
Liesbeth de Vries(リーズベス・ドフリース)博士はAMCのPSC研究チームに最近参加し、オランダの対象PSC患者をさらに広げ調査していく予定です。この研究を通して、我々はオランダ国内でユニークな状況を経験することになります。すなわち、国内のPSC患者全員をマッピングし、年1回の医療記録更新によってPSCの経過を厳密に観察できるのです。


現在、本研究プロジェクトの全データはAMCの大規模データベースに保存されており、使用できるのはAMCの研究者のみです。研究チームでは、関与するすべての医師がログインし、担当患者の関連情報を入力できるような、Webベースのデータベース開発に期待をかけています。

これは世界的に最大規模の、PSC患者に関する地域住民コホート研究です。この患者群は現時点で前向きに追跡調査されています。対象患者集団は既知であり特定されているため、PSCに関する研究をこれから実施する研究者にとっては極めて興味深いものとなるでしょう。また、これによって貴重な時間と費用を節約できます。今後、PSC患者全員の登録終了後に何がわかるのか(地域別に差異があるのか、それとも、より一般的な臨床的発展が発見されるのか)興味深いところです。


Boonstra
Boonstra医師は、2014年10月に博士論文の口述試験の合格を目指しています。その後、胃腸・肝臓専門医の仕事につくため、来年には臨床研修に志願する予定です。


参考文献

1. Boonstra K, Weersma R Erpecum Of KJ, et al Population-Based Epidemiology, Malignancy
Risk and Outcome of Primary Sclerosing Cholangitis. Hepatology 2013, 58:2045-2055.



用語集


コホート            研究対象となる、共通の特徴を持つ母集団


大腸内視鏡検査      内視鏡による結腸の検査

DEXAスキャン               二重エネルギーX線吸収測定法。骨密度を測定する方法で、骨粗鬆症
(骨量・骨密度が減少した状態)の診断に用いられる。

内視鏡検査          内視鏡(柔軟性のあるチューブ)を用いて臓器の内部を目視検査すること

 

前向き研究          別の疾患が主な原因ではない原発性硬化性胆管炎(PSC)を発症した患者群のさらなる経過を観察する


硬化性              組織が硬化すること

胆管炎              胆管が炎症を起こした状態

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著者:Marleen K

編集者:Valmae

翻訳者:Kazuyo Levitan

インタビューで取り上げた論文へのリンク先:
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep.26565/abstract

 

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This article is copyright-free, when;

  1. Mentioning: An article by PSC Patients Europe (PSCPatientsEurope.org)
  2. Sending the link / a hard copy to PSC Patients Europe

We will collect all the data regarding the spread of the article and give this feedback to Dr Boonstra, as well as other researchers and other stakeholders. It will contribute to our quest to have lay versions broadly available to the public.

If you have questions or remarks further to this article, please email to
info@pscpatientseurope.org